美しく老いる 2019 1 5

 私は、「今や人生100年時代である」と、
軽々しく書きましたが、
それは、登山にも似て、多くの難所があると思います。
 日本では、定年とされる60歳でも、
まだ登山口に立ったようなものかもしれません。
 今から数十年前、私は、高名な整形外科医と話をしたことがあります。
話が盛り上がって、私は、うっかり、このようなことを言ってしまいました。
「人間は、年を取ると、褒められればうれしくなるが、
けなされるとすぐ怒りたくなるものです」
 整形外科医は、こう言いました。
「実は、私も、そうである」
 私は、「しまった」と思い、話題をそらそうとしましたが、
整形外科医は、それを制して、話題を続けました。
「私も若い頃は、そんなことはなかった。
批判されれば、なぜ批判されたのかを研究したものだ。
私は、年を取ったものだ」
 ところで、私は、本屋で、このようなことを体験しました。
本を2冊買って、店員がビニールの袋に入れてくれました。
 私は、「もう1冊買おうか」と思い、
本屋の奥には、椅子がたくさん並べてあったので、
椅子の上に、本が入ったビニールの袋を置いて、
本を探しに行ったのです。
 間もなく、椅子に戻ったところ、
隣に座っていた高齢の紳士が、
勝手にビニールの袋を開けて、
中に入っている本を覗いていたのです。
 私は、驚きましたが、多少、医学の知識があったので、
紳士のプライドを損ねないように、
見知らぬふりをして、椅子の近くを通り過ぎました。
 紳士は、自分のしていることに気づいて、
本を元に戻して、ゆっくりと立ち上がり出ていきました。
 誰でも、「隣の人は、どんな本を買ったのだろうか」という好奇心がありますが、
一方で、「無断で本の袋を開けたら失礼に当たる」という抑制が働きますが、
前頭葉が衰えてくると、
本能的な行動を抑制して理性的にふるまうことができなくなります。
 男性は、60歳で定年退職をすると、
人間関係がゼロになります。
つまり、会社で作った人間関係を失うのです。
人間関係がゼロになると同時に、孤独がやってくるのです。
 一方、女性は、地域社会に溶け込んで、人間関係を作り上げています。
妻は、夫から「仕事が忙しい」と言われて、
学校のPTA活動を押し付けられたり、
地域の自治会活動まで押し付けられることがあります。
 しかし、これが幸いして、
地域社会において、人間関係を構築できるのです。
さらに、これが「異業種交流」にもなって、人生における「刺激」となるのです。
 さて、孤独に取りつかれた男性は、どうすべきか。
いまさら、PTA活動も自治会活動も無理でしょう。
まず、挨拶をすることから始めましょう。
 近所の人と会っても、会釈をするだけの人が多いですが、
「こんにちわ」と声を出すことが大切です。
いつか、気軽に世間話をする自分に気づくようになっています。




































































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